第7章 酷悪
相澤がただ一人で戦い続けている施設の中心へと、結は無我夢中で駆けていた。
喉が焼けつくように痛むが、立ち止まる選択肢はなかった。
遠くで爆音が断続的に響き、足元にはどこから飛んできたのか分からない瓦礫が転がっている。
全身が震えているが、足は意志を持って前へと進んでいく。
「おい、ガキが向かってきたぞ」
「一人か? しかも、女じゃねーか!」
行く手を遮ったのは、挑発的な笑みを浮かべた数人の敵だった。
武器すら構えず、完全に油断しきった態度。
そんな軽薄さを前に、結は怒りよりも冷静な観察が先に働いた。
彼らは、ただの無力な子どもが迷い込んだとでも思っているのだ。
得意とする二つの個性だけでは、足止め程度にしかならないと分かっていた。
結の右手にじわりと熱が集まる。
意識の底で、爆豪が火花を散らしながら敵を薙ぎ払う姿がよぎった。
「ビビっちまったかぁ? たった一人で、どーやって俺らを――」
「邪魔しないで」
敵の言葉は最後まで響かなかった。
右手を振り上げた瞬間、耳をつんざく爆音が周囲を揺らした。
爆風が敵をのみ込み、立っていた場所には焼け焦げた影だけが残る。
手のひらに残る熱を確かめながら、結は小さく息を吐いた。
指先が痺れているが、立ち止まるわけにはいかなかった。