第7章 酷悪
「停止女は、クソザコにトドメも刺せねェくせに、一人で行動すンのかよ。呑気なこった」
「さっきは手が出せなかったけど、次は大丈夫。……爆豪くんこそ、汗すごいよ。バテてる?」
「……あァ?」
「おいおい、ここで喧嘩すんなって!」
結の不用意な一言に、爆豪の額に青筋が浮かび、怒気が火花のように散る。
切島は慌てて結の前に立ちふさがり、爆豪をなだめるように両腕を広げた。
その隙に結は窓辺まで歩み出る。
外を見下ろし、周囲の安全を確かめると、窓枠に足をかけてふり返った。
「そろそろ行くね」
「行くって、どこに――」
「先生のところ」
「は……?」
躊躇は一切ない。
結はそのまま、窓の外へ身を投げた。
瞬く間に姿が視界から消え、切島と爆豪の心臓が一度止まりかける。
結の個性は落下を受け止めるものではなかったはずだと、二人の認識をかき乱した。
切島は急いで窓へ駆け寄り、冷たい枠に手を置いて身を乗り出す。
視界の下、そこには軽やかに着地した結の姿が見えた。
「し、心臓止まるかと思った……」
安堵の息を吐く切島の背後で、爆豪が舌打ちをひとつ落とす。
残された二人の間に漂う空気は、まだ戦場の余熱を帯びたままだった。