第1章 新しい日常
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
「担任!?」
教室中が跳ねるようにざわめく。
口を開けて固まる者、目を丸くする者、呆然と椅子に座ったままの者。
どよめきは衝撃そのものだった。
結も例外ではなく「聞いてない!」と心の中で叫びながら彼を見つめると、相澤は「まあ、言ってないからな」とでも言いたげに視線を返してきた。
この男――相澤消太は雄英高校の教師であり、現役のプロヒーロー。
結にとっては、それ以上の存在だった。
数年前の出来事をきっかけに、一つ屋根の下で暮らすようになった。
血の繋がりはないが、家で向けられる眼差しは誰より温かい。
昨夜も今朝もいつも通りだったのに、まさか担任として向かい合うなんて思いもしなかった。
結の胸の奥で、驚きと戸惑いと少しの嬉しさが複雑に混ざり合う。
「早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」
相澤は教室をぐるりと見渡し、机の数と生徒の顔を確認すると、また寝袋の中を漁り始めた。
無駄のない動きで高く掲げたのは雄英高校指定の体操服。
一目で分かるしっかりした布地と、普通の運動着とは違う重み。
これから始まるのはただの授業ではない。
そして、この男が一年間、容赦なく自分たちを引っ張るのだということを、生徒全員が悟っていた。