第1章 新しい日常
切島の明るい声を断ち切るように、低く冷えた声が教室に落ちた。
拒絶の温度を含んだ音色に、切島も結も思わず振り返る。
他の生徒もざわめきを止め、声の主を探して視線を走らせるが、姿は見えない。
ただ、出入り口近くにいた緑谷出久と麗日お茶子が、こわばった表情で廊下を凝視していた。
緑谷の深い緑の髪が揺れ、麗日の丸い瞳が不安げに揺れる。
そこに何がいるのか、言葉にできないまま息を呑んでいた。
「ここはヒーロー科だぞ」
ぞくりとした声の先。
教室の扉前には、黄色い寝袋に包まれた男が転がるように横たわっていた。
頭だけひょっこり出し、懐からゼリー飲料を取り出して無造作に吸う。
その音だけが、静まった教室にやけに大きく響いた。
異様な光景に、生徒たちの胸中には「なんかいる!!」という叫びがこみ上げたが、声にはならなかった。
笑っていいのか、警戒すべきなのか。
誰も判断できないまま妙な沈黙が続く。
「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
寝袋の中から男はずるりと立ち上がった。
ぼさぼさの黒髪に無精髭。
黒ずくめの服に帯状の武器を巻きつけた姿は、教師どころか普通の大人の枠からも外れて見えた。
他の教師の気配がないことに「なんで消太さんだけ……?」と結は小さく呟き、緑谷も「この人もプロヒーローなのか?」と青ざめた声を漏らす。
男はそんな反応を意にも介さず、乾いた声で告げた。