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お友達から始めよう【ヒロアカ】

第1章 新しい日常



「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」


 寝袋から現れたのは、無精髭を生やし、切り揃われていない長い黒髪の男だった。
 全身黒ずくめの服装に、首元には帯状の捕縛武器を巻きつけている。
 猫背でやる気の感じられない姿は、雄英高校の教師としてはあまりにもかけ離れていた。
 誰もが彼の見た目に疑念を抱かざるを得なかった。


「……え、な、なんで」


 結は他の教師らしき人物が見当たらないことに疑問を抱き、緑谷も小さな声で「この人もプロヒーローなのか」と不安げに呟いた。

 男は教室に一歩踏み込むと、冷たい声色で話し始める。
 その一言は教室にいる全員に強烈な衝撃を与えた。


「担任の相澤消太だ。よろしくね」
「担任!?」


 生徒たちの間に驚愕と動揺が広がった。
 口を開けたまま固まる者、目を丸くして呆然とする者が続出する。

 結もその一人で、感情が入り混じった表情のまま「聞いてない!」と相澤に目で訴えた。
 相澤はその思いを感じ取ると、何食わぬ顔で「まあ、言ってないからな」と視線を返した。


 相澤消太は雄英高校の教師であり、現役のプロヒーローでもある。

 結が中学時代に経験したある出来事をきっかけに、二人は同じ屋根の下で暮らし始めた。
 相澤は結にとって単なる同居人ではなく、本物の家族のような大切な存在であった。

 今朝は一足先に家を空けていて、昨夜も特に変わった様子もなかった。
 まさか教科担当ではなく、担任になるとは考えもしていなかったことで。
 毎日顔を合わせている相澤が学校でも会える。
 結の心の中には驚きとともに、嬉しさと戸惑いが半分ずつ絡み合っていた。


 相澤は教室の机の数と生徒の人数を一目で確認すると、先程まで使用していた寝袋の中をゴソゴソと漁り始めた。
 無駄のない動きで手際よく何かを取り出す。


「早速だが、これ着てグラウンドに出ろ」


 相澤が全員に向けて掲げたのは、一着の服。

 雄英高校指定の男女兼用体操服が彼の手にしっかりと握られていた。


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