第7章 酷悪
色を失った絵の具のように、視界がじわじわと黒に沈んでいく。
地面の感覚が遠のき、重力さえ失われていた。
背筋を冷たさが這い上がり、呼吸が細く詰まる。
瞼を開くと、そこは見覚えのない廃墟の一室だった。
瓦礫が散らばり、ひび割れた壁の隙間から淡い光が差し込んでいる。
現実味の薄い光景に、結は足元を失ったまま床へ倒れ込んだ。
「痛っ……くない」
「あぁ!? 重ェんだよ、さっさと退けや!!」
「ご、ごめん!」
落ちてきたのは一人だけではなかった。
結の下敷きになっていたのは爆豪で、そのさらに下には切島の姿がある。
切島は痛みに顔をしかめながらも、しっかりと二人の着地を受け止めていた。
結は慌てて立ち上がると、爆豪の背から離れ、コスチュームについた埃を払った。
「おい、爆豪! そこまで言う必要ねぇだろ!」
「い、いいよ切島くん。大丈夫だから」
「うるせェ黙ってろ! つーか、ここ何処だよ! あのクソ靄どこいきやがった!!」
爆豪の怒声が廃墟に鋭く響く。
敵の個性によって仲間たちと引き離されたのは間違いなかった。
今ここにいるのは、結と切島、そして掌に火花を散らす爆豪の三人だけだ。
「お、男二人に女一人か。殺しがいがありそうだな」
「待ち構えててよかったぜ」
闇の奥で蠢いていた影が、ゆらりと姿を現した。
刃物や拳銃を手にした複数の敵が、歪んだ笑みを貼りつけたまま、じりじりと近づいてくる。
瞳に宿っているのは欲望と狂気と、はっきりとした殺意だった。