第7章 酷悪
ヒーロー科一年A組が校舎から離れたUSJで授業を受けていた最中、大量の敵が現れたのは偶然ではなかった。
侵入は明らかに計画的で、施設に備えられた異常感知システムや各種センサーは、何らかの手段で無力化させられていた。
「13号、避難開始! 学校に連絡試せ!」
「わかりました!」
相澤は揺るぎない声で次々と指示を飛ばす。
帯電の個性を持つ上鳴には通信経路の確保を命じた。
外部との連絡も遮られてしまえば、状況は一気に悪化してしまう。
「千歳……おい、千歳!」
結はその場に固まっていた。
噴水の近くに広がる黒い靄から視線を外せない。
体を動かそうとする意志は、胸の奥で膨らむ恐怖に押し潰されていく。
相澤は結の肩に手を置くと、迷いなく階段から遠ざけた。
「13号の近くにいろ。いいか、絶対に離れるなよ」
「……消太さんは、一人で戦うの? どんなに強くても、あの数を相手にするのは、無理じゃ――」
「俺は大丈夫だ。今は自分の心配をしろ」
振り返らずに放たれた声に、結の胸がじわりと熱を帯びた。
冷たさに沈んでいくようだった鼓動が強く脈打つ。
足元の感覚は遠のき、息が浅くなった。
「もし、消太さんに何かあったら、わたしは……」
呟きは騒然とした音にかき消され、相澤は振り向かない。
13号が誘導する生徒たちの背後で、自らはただ一人、敵の群れへと踏み込んでいく。
ゴーグルを装着した姿は昔と変わらないはずなのに、その背中は結にとってあまりにも大きく、遠かった。
――何も、起こらないで。
結はそれだけを祈った。