第6章 波乱の一日
「俺さぁ、気づいたら昇降口の近くまで流されててさ! 落ち着いた頃にやっと立ち上がったら千歳も切島もいなくて! お前らどこにいたんだよ……!」
上鳴は肩を落とし、迷子になった子どものような表情で二人に問いかけた。
その声には、置き去りにされた寂しさと不安が混ざっている。
普段の明るさは影を潜め、どこか頼りなさが滲んでいた。
「食堂からそんなに離れてなかったはず……私も流されそうになったけど、切島くんが助けてくれて」
「悪ぃ上鳴! お前だけ流されちまってよ。でも、無事でよかったぜ!」
「俺の心は無事じゃねぇよお……!」
切島の声には自分を責める響きがかすかに滲んでいた。
上鳴は涙を浮かべながら肩をすくめる。
それでも、冗談めかして言葉を返していた。
笑って済ませようとする彼らのやり取りには、確かに絆があった。
今回の騒ぎは、何者かが雄英高校のセキュリティゲートを破壊し、敷地内へ侵入したことで起きた混乱だった。
校舎に満ちていた日常は一瞬で打ち壊され、生徒たちは恐怖に駆られて逃げ惑った。
警察の到着とともに、報道陣は事態への関与を恐れて次々と撤退していった。
騒がしかった廊下も徐々に人の流れが落ち着き、緊張の残り香だけが漂っていた。