• テキストサイズ

お友達から始めよう【ヒロアカ】

第6章 波乱の一日



「あ! 千歳っ!」


 聞き慣れた声が喧騒の中で響く。
 それは切島だった。
 混雑に飲まれそうな結を見つけ、彼は人波をかき分けながら近づいてくる。
 顔には焦りと安堵が浮かんでいた。

 差し出された手に、結は指を伸ばして縋る。
 触れた瞬間、その手は強く結を引き寄せた。
 人の流れに抗いながら、切島は結を守るように壁際へと導き、自らの身体を盾にして立ちはだかった。
 広げた腕の中に結を収め、強く押し寄せる人々の圧から守る。
 視界の隙間から、切島の赤いネクタイが揺れた。


「ご、ごめん、切島くん。ありがとう」
「いいっていいって! 千歳だけでも助けられてよかった」


 震えた結の声に、切島は安心させるように朗らかに笑った。
 その表情には、無事でいてくれたことへの心からの安堵がにじんでいた。


「上鳴くんは……?」
「あいつはソーメンみてぇに流れちまった……もっと早く気づいていれば助けられたんだろうけどよ……完全に俺の力不足だ、すまねぇ上鳴……!」


 切島は悔しさを隠そうともせず、出口へと目を向けて「お前のこと忘れねぇからな!」と叫んだ。
 人の波に飲まれていく上鳴の姿は、見ていないはずだが頭に浮かんでくる。
 転びかけながら、叫びながら、手を振っている姿。

 結はそんなイメージを振り払うように目を伏せる。
 しかし、あの一瞬に掴まれた手の温度がじんわりと残っていた。
 取り残された仲間に思いを馳せながら、事態が収まるようにと祈るしかなかった。


/ 179ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp