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お友達から始めよう【ヒロアカ】

第6章 波乱の一日


 人の流れはすぐに膨れ上がり、廊下には足元が見えないほどの混雑が生まれる。
 ざわめきと焦燥が空気を重くし、目の前の光景が現実味を失っていく。
 誰もが事態の重大さに気づき始めていた。


「待て! 押すな!」
「痛い痛い! 誰か足踏んでる!」
「一旦止まれって! 危ねぇから!」


 叫びが飛び交う混乱の中、結は必死に切島と上鳴の姿を探した。
 だが、二人はあっという間に人波に消え、その姿はどこにも見えなかった。
 周囲を見渡すも、見知った顔は見当たらない。

 不安と焦燥が胸を締めつける。
 気づけば群衆に押し流されるまま、出口へと歩を進めていた。
 足元の感覚は薄れ、無数の足音とぶつかり合う身体が思考の糸をずたずたに切っていく。

 自分を守ることで精一杯な人々に、他者を思いやる余裕はなかった。
 肩がぶつかり、肘が当たる。
 背中を押されながら、結は廊下の中央に飲まれていく。

 ひとり分の隙間さえない密集。
 少しでも圧から逃れるために、壁際へと身体を寄せようとしたそのとき。
 不意に右手首を冷たく硬い手が掴んだ。
 力強く、容赦なく、まるで引きずり込もうとするほどの圧で。


「だ、誰……? 離して……っ」


 結は必死に身を捩った。
 見上げようにも相手の顔は見えず、制服の袖が視界の隅に揺れているだけだった。
 無言で力任せに引こうとする手に、結は恐怖を押し殺して抗おうとする。

 相澤なら、こんなやり方はしない。
 言葉もないまま引っ張ることなんて。
 そう思った瞬間、恐怖が限界を超え、結は全身の力を振り絞って手を振り払った。
 重心を失った身体が混雑の中を後退し、硬い壁に背中を打ちつけた。
 衝撃に背筋が震え、息が詰まる。
 呼吸を整える暇もなく視界が揺れた。


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