第7章 酷悪
「ひとかたまりになって動くな! 13号! 生徒を守れ!!」
相澤の大声が響き渡ると同時に、黒い靄から次々と人影や謎の生物が姿を現し始めた。
四方八方に広がり、その場を占拠していく。
生徒たちは出口の真向かいの高所に位置する場所に集まっていたが、危機感がすぐには伝わらず、混乱した状況が続いていた。
「何、あれ」
「また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」
「動くな!!」
施設の中央を覗こうとした切島を、相澤が鋭い動きで制止した。
彼の手には黄色いゴーグルがしっかりと握られていた。
それを装着するのは、ヒーローとして本格的に行動をする時のみ。
結は相澤が言葉を発する前に事態の深刻さを理解し、全身が凍りつくような感覚に襲われた。
「あれは敵だ!!」
相澤の叫びが響き渡ると、生徒たちは一斉に息を飲んだ。
ヒーロー科に入学したとはいえ、実際の敵を相手にする授業が行われることなどありえなかった。
学校側のカリキュラムは、仮想敵や対人戦闘を通じて徐々に経験を積ませ、プロヒーローの元でインターンシップを行うことで、ようやく実際の敵との戦いや対処法を学ぶものだった。
しかし、その予定は崩れ去り、生徒たちはまだ訓練途中の身でありながら、真の敵と対峙することになってしまった。
施設の中央で、黒い靄の中から現れた男が生徒たちに目を向ける。
彼の姿は異様で、頭や肩、腕には不気味な手のようなもの自らを包むように付着していた。
「せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさ……オールマイト、平和の象徴いないなんて……子供を殺せば来るのかな?」
男の発言には底知れぬ悪意が滲み出ていた。
言葉一つ一つが刃のように鋭く、生徒たちの心に突き刺さる。
ただの訓練の一環ではなく、命の危機に直面していることを痛感していた。