第6章 波乱の一日
やがて校内放送が入り、教師たちが状況を説明し、冷静な指示を下した。
その声に、生徒たちの緊張も次第にほどけていく。
揺らいでいた校内には、少しずつ日常の輪郭が戻りつつあった。
「委員長は――やっぱり、飯田くんが良いと思います!」
午後の授業。
学級委員長に選ばれていた緑谷が、席を立って言った。
教室に素直な納得を呼び、飯田は驚いたように目を見開いた。
仲間たちの信頼を受け止めながら眼鏡を押し上げると、真っ直ぐに姿勢を正した。
「委員長の指名ならば仕方あるまい!」
「任せたぜ非常口!」
「よっ! 非常口飯田!」
冗談まじりの歓声が上がり、教室に明るさが戻る。
責任を背負う緊張の中にも、飯田の表情には確かな自信が宿り始めていた。
その後の授業は穏やかに進み、いつもの時間が流れ出す。
だが、戻りつつある日常の下で、誰も気づいていなかった。
静かに忍び寄る“悲劇”が、すぐそこまで迫っていることを。