第7章 酷悪
報道関係者が騒ぎを起こしてから丸一日。
午後の授業では、ヒーロー基礎学の一環として人命救助訓練が行われる。
この訓練には、相澤、オールマイト、そして現地で待機しているスペースヒーロー13号の三人が指導にあたる予定だった。
しかし、オールマイトは通勤中に活動を制限ギリギリまで続けてしまい、到着が遅れるとのこと。
訓練場は学校から離れた場所に位置しているため、生徒たちはバスで移動する。
新たに委員長に任命された飯田は、バスの入口で生徒たちに番号順に二列に並ぶよう指示したが、予想とは異なる席の配置に嘆きの漏らし、生徒たちは自由に席を選び始めた。
「すっげー!! USJかよ!?」
バスの揺れを感じながら目的地に到着すると、目の前には多種多様な事故や災害を想定して作られた演習場が広がっていた。
この施設は、ウソの災害や事故ルーム、略してUSJと呼ばれる場所だ。
訓練の前に、13号が自身の個性について説明を行った。
13号の個性はブラックホール、あらゆる物質を吸い込んで塵に変える力を持っている。
使い方を誤ると重大な危険を伴うため、13号は個性の可能性と危険性について詳細に説明し、人命救助にどのように役立てるかを学ぶ重要性を説いた。
体力テストでは自分の個性に秘められた力を理解し、戦闘訓練では実際に人に向ける危うさを体験した。
そして次に学ぶべきは、その力をどう人命救助に活かすかだ。
個性は他者を傷つけるためにあるのではなく、助けるために使うもの。
それをしっかりと心得た上で訓練を終え、帰路につくようにと語りかけた。
13号は話を終えると、深くお辞儀をした。
「以上! ご静聴ありがとうございました!」
「ステキー!」
「ブラボー! ブラーボー!!」
「そんじゃあ、まずは――」
歓声が上がり、和やかな空気に包まれる中、相澤が訓練内容の説明を始めようと口を開いた。
だが、彼は言葉を発する前に動きを止め、異変を感じた中央の噴水付近へと視線を向けた。
先程まで何の問題もなかった場所に、突如として黒い靄のようなものが広がり始めた。
靄は徐々に広がり、中から人の手が見え始める。
まるで闇から現れる幻影のように。
その瞬間から、幸せだった日常が音を立てて崩れていく。
再び訪れた“悲劇”が始まろうとしていた。