第1章 新しい日常
「秘密兵器が出た時、俺も近くにいてさ。瓦礫の下敷きになってた人を助けようとしたんだけどよ。千歳が近付いたら、ロボットはぐるぐる空中で回るし、瓦礫も飛んでくし……とにかくすげえ迫力だった! 俺も負けてらんねえってアツくなったぜ!」
「そう、かな……」
熱を帯びた切島の瞳には、憧れにも似た敬意が宿っていた。
結は視線を落とし、曖昧な記憶の奥をそっと手繰る。
――ああ、上手く使えなかった時の。
断片的だった記憶がゆっくりと輪郭を取り戻していく。
実技試験の終盤、圧倒的な存在感で現れた巨大ロボット。
それは周囲の意識を一瞬で塗りつぶすほどの脅威だった。
近くにいた結は、瓦礫に足を挟まれて動けない人を見つけ、迷わず駆け寄った。
救助のために“個性”を使い、ロボットを空へ押し上げようとする。
だが、想像よりロボットは重く、巨体は空中で不安定に揺れた。
ゆらつき、軌道を乱し、蛇がのたうつように暴れる。
たしかにあれは、外から見れば振り回していたように見えたのかもしれない。
「そういや、千歳の個性って見た感じ浮遊系だったよな! 人も浮かせたりできんのか?」
「それは……試したことがないから、わからない。ごめんね」
「謝らなくていいって! じゃあ、今度一緒に試してみようぜ。もし落っこちても俺の個性なら――」
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」