第6章 波乱の一日
「待て! 押すな!」
「痛っ……! 誰か足踏んでる!」
「一旦止まれって! 危ねぇから!」
叫びが飛び交う中、結は必死に切島と上鳴を探した。
しかし、二人の姿はとうに人波に消え、見知った顔はどこにもない。
胸を締めつける不安と焦りに流されるように、結は群衆の圧にのまれた。
足元の感覚は薄れ、押し寄せる肩と背中が思考を奪っていく。
誰もが自分を守ることで精一杯で、他者を気遣う余裕などなかった。
肘が当たり、肩が擦れ、結は廊下の中央へ押し出される。
少しでも圧から逃れようと壁際に寄ろうとしたとき。
右手首を、冷たく硬い手が掴んだ。
強引で、容赦もなく、引きずり込むほどの力で。
「だ、誰? 離して……っ」
結は身を捩って振りほどこうとしたが、相手の顔は見えない。
制服の袖だけが視界の端をかすめる。
言葉もなく引こうとするその手に恐怖が込み上げ、結は力いっぱい腕を振り払った。
その勢いで身体が後ろに弾かれ、硬い壁に背中を打ちつける。
衝撃に息が詰まり、視界が揺れた。