第6章 波乱の一日
「千歳も自分に投票したのか?」
「ううん。でも、緑谷くんも頼りにしてるから、結果的には良かったかな」
「誰、誰!? 頭文字だけでも教えてくれよー! 切島と違って、俺なら言いふらしたりしねーからさぁ!?」
上鳴が興奮まじりに駆け寄ってくる。
その勢いを受け流し、隣を歩く切島が「俺もしねぇよ」と軽く肩をすくめた。
どう返すべきかと、結はひと呼吸置く。
人数の限られたクラスでは、ちょっとした情報でも答えへ辿りつかれてしまう。
「ヒントちょーだい! 何でもいいから!」
「何でも?」
「何でも!」
「じゃあ一つだけ。上鳴くん以外の人に入れたよ」
「そうだけどそうじゃない……!」
上鳴は天井を仰ぎ、肩をしゅんと落とした。
その隣で、なぜか切島だけが爽やかにガッツポーズを決める。
賑やかな二人の様子に、結の口元にも自然と笑みが浮かんだ。
――そのときだった。
甲高い警報音が校舎に響き渡り、廊下の空気が一瞬で凍りついた。
『セキュリティ三が突破されました。生徒の皆さんは、すみやかに屋外へ避難して下さい』
「せ、セキュリティ!? なんだそれ!?」
校内放送が告げる異常事態。
扉が開く音、椅子が引かれる音、揺れる足音が次々と重なった。
ざわめきはすぐに緊迫へと変わり、生徒たちは出口を目指して動き出す。
流れは瞬く間に膨れ上がり、廊下は足元さえ見えない密集状態となった。
焦燥が空気を押し潰し、誰もが事態の深刻さに気づき始める。