第6章 波乱の一日
だが、楽しげなやり取りを遮るように、校内にけたたましい警報が鳴り響く。
鋭い音は耳をつんざき、廊下は一瞬にして緊張感に包まれた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』
「せ、セキュリティ!? なんだそれ!?」
突如として響いた校内放送が、静かな廊下を混乱に陥れた。
三人が驚きのあまり動けずにいる間にも、他の生徒たちは放送を聞いて次々と廊下に飛び出した。
避難指示に従って出口へ向かう人々の流れは膨れ上がり、瞬く間に足元が見えないほどの混雑が生まれる。
廊下は混乱と恐怖に包まれた。
「待て! 押すな!」
「痛い痛い! 誰か足踏んでる!」
「一旦止まれって! 危ねぇから!」
人の波に押し流されながら結は切島と上鳴の姿を探したが、二人はあっという間に視界から消え、群衆に飲み込まれてしまった。
焦燥感と共に周囲の顔を見渡すが、見知った顔は一つも見当たらない。
結は人々に押し流され、無意識に出口へと向かっていた。
混雑は一向に解消される気配がなく、むしろ増していく一方だった。
ざわめきが耳を突き刺し、無数の足音が合わさり、結の意識を混乱させていく。
「危ない……っ、押さないで……!」
廊下を埋め尽くす群衆は、誰もが自分を守ろうと必死で、他人に対しての配慮は欠片も感じられなかった。
肘や膝がぶつかり合い、押し寄せる力に耐えながら、結は流されるように廊下の真ん中へと進んでいく。
次第に広い廊下には一人分の道幅すら残らないほど、人々は密集していた。
結はなんとか混雑を避けようと、隙間を探して壁際に向かって体を動かした。
その時、不意に何者かが結の右手首を強く掴んだ。
誰のものか確認しようとしたが、混雑の中では顔すら見えない。
相手は冷たく大きな手で結を引き寄せようとしていた。