第6章 波乱の一日
男の声が近づくと、よく通る声が騒音を切り裂いた。
声とともに結の前に影が落ち、金髪の青年が庇うようにして立ちはだかる。
がっしりとした手が結の肩に触れる。
振り向いた彼の瞳は穏やかで、優しさを滲ませていた。
「大勢に囲まれて怖かったよね? もう大丈夫さ!」
その言葉が胸の奥で張り詰めた糸をほどいていく。
しかし、それを許さないとばかりに、男が抗議の声を上げた。
「ま、待ってくれ! 彼女に聞きたいことが……!」
「はーい! また通りますよー!」
青年は軽やかに手を振ると、結の背中をそっと押して歩き出す。
周囲の記者たちが手を伸ばすが、彼はその腕をひょいと避け、流れるように人混みをすり抜けていく。
脱出不可能に思えた雑踏から、二人はあっという間に抜け出していた。
やがて、昇降口にたどり着き、ようやく人の波が遠ざかる。
「ここまで来れば安心だね! 怪我は……うん、見た感じ平気そうだ!」
「はい、ありがとうございました……!」
「どういたしまして! 困ってる人を助けるのは当然のことだからね!」
結が頭を下げると、青年は眩しい笑みを浮かべ、胸を張って親指で自分を指し示した。
背後から猫背の青年がひょっこりと姿を現すと、“ミリオ”と呼ばれた彼は、結に元気よく手を振った。