第5章 戦闘訓練
夕焼けは校舎の廊下を染め上げていた。
赤橙の光が窓から差し込み、足元には長くゆらめく影が伸びている。
結はリュックサックを胸に抱きしめながら、ゆっくりと歩いていた。
細い腕に力を込めるようにして、少しだけ背中を丸めている。
すると、目線を落とした先に黒い靴が現れた。
とたんに聞き慣れた声が耳を打った。
「結」
「……消太さん」
低く、どこまでも落ち着いた声。
顔を上げると、相澤が普段と変わらない表情で立っていた。
無愛想とも思えるその顔には、どこか柔らかな気配がある。
そして、結の顔色を見て、彼は僅かに眉を寄せた。
「帰ったら少し寝とけ。顔真っ青だぞ」
「え、そんなに酷い顔してる?」
「してる」
相澤は片手で結の頬にそっと触れた。
親指が目元を優しくなぞる。
乱暴さのない動きに、緊張していた結の心がふっとほどけていく。
掌から伝わる体温は、今日の疲れや不安を静かに溶かす。
何も考えたくない。
今はこの優しさに包まれていたかった。
「さっきの戦い、常闇と上手く連携取れてたな。無駄な動きが少なく、合理的な戦い方だった」
「は、早いね。もう見たんだ」
「本来なら俺も参加する予定だったからな。録画は全部確認した」
「そうなんだ……ほ、他には? 気になったことない?」
「他?」
淡々と返された一言に、結の胸が小さく鳴った。
視線を足元へと落とし、ためらいながら言葉を探す。