第6章 波乱の一日
「その肩のボタン! あなた、ヒーロー科の生徒ですよね!?」
「えっ! ヒーロー科!?」
「どの子!? 早く話聞き出して!」
一人の記者が叫んだことで、視線が一斉に結に集まった。
心臓が跳ね上がり、喉が焼けつくように乾く。
記者たちの数は増すばかりで、場の喧騒が一層大きくなる。
耳に届く声もノイズにしか聞こえない。
カメラのフラッシュが弾けたことで、結は咄嗟に目を背けた。
「君、どこかで見た気が」
そのとき、記者たちの隙間から顔を出した若い男と目が合った。
冷たい視線が、結の内面に何かを探ろうとするようにじっと向けられる。
記者たちの好奇心とは異なり、何か底知れぬ意志を感じさせた。
視線が全身を舐めるように動き、血の気が引いていく。
両手に汗が滲み、息が浅くなる。
心の奥底で忘れかけていた不安が、音もなく広がっていく。
「どうしよう……」
声にならない呟きが震えた。
助けを呼ぶことも、言葉を発する勇気もない。
ただ、この場から抜け出す方法を探すことだけが頭を占めていた。
個性を使って周囲の動きを封じるべきか。
しかし、もし失敗すれば人を傷つけてしまうかもしれない。
それでも、この男の視線から逃げ出したい。
そんな思いが結を支配していた。
答えの出ない思考が頭の中をぐるぐると巡る。
後ろへと下がろうとするが、別の記者にぶつかり、前にも後ろにも進むことができない。
オールマイトについての質問など、もはやどうでもよかった。
「確か――」
「通行の妨げになっているんだよね!」