第5章 戦闘訓練
「……な、なに?」
結は胸の内でわずかに警戒を強めた。
表情は変えず、ぎこちなく返事をする。
轟は一歩だけ距離を詰めると、その目を細めた。
「お前の個性、動きを止める能力と物を浮かす能力、あとは何だ? 二つだけじゃ、握力も50メートル走の記録も説明がつかねぇだろ」
彼の指摘は突き刺すように真っ直ぐだった。
一瞬、呼吸が浅くなり、結は視線を逸らして荷物から手を離す。
轟の視線が氷の硬さで胸を締め付けた。
「他にも使えんのか? 何が使えるんだ?」
「えっと……色々と使えるんじゃない、かな……」
「自分の個性なのに、随分と自信ねぇんだな」
「……うん、ないよ」
結の声は小さく、言葉は口から滑り出すたびに力を失っていた。
轟の表情には苛立ちが浮かぶ。
さらに言葉を重ねようとしたそのとき、教室に新たな声が飛び込んできた。
保健室送りになっていた緑谷が戻ってきたのだ。
両腕にはしっかりと包帯が巻かれていたが、その顔には痛みの影すら見えず、いつもの明るさが宿っていた。
「ご心配をおかけしました!」と、元気な声が教室に響くと、誰もが笑顔を返し、労いの声が次々に飛ぶ。
嵐が過ぎ去ったあとの青空のように、教室全体が一気に晴れやかになっていく。
そんな声を背に結は荷物をまとめ、轟の視線を断ち切って立ち上がる。
足は自然と緑谷の方へと向かっていた。
彼は満身創痍のはずだが、それを誇らしくすら思えるほど、明るく真っ直ぐな笑顔を浮かべていた。