第5章 戦闘訓練
赤橙の光が廊下の窓から流れ込み、足元には長い影が揺れている。
結はリュックを胸の前で抱え、背中をわずかに丸めながら歩いていた。
心の不安を押しとどめるために、腕に力を込めて。
ふと視線を落とすと、黒い靴が目の前に現れた。
その直後、聞き慣れた声が耳を打つ。
「結」
「……消太さん」
低く落ち着いた声だった。
顔を上げると、相澤がいつもの無表情で立っていた。
無愛想にも見えるその顔には、どこか柔らかな気配があった。
結の顔色に気づいたのか、彼はわずかに眉を寄せる。
「帰ったら少し寝とけ。顔真っ青だぞ」
「え、そんなに酷い顔してる?」
「してる」
言い終えると同時に、相澤は結の頬へそっと手を添えた。
親指が目元を優しくなぞる。
乱れた呼吸を整えるような触れ方だった。
体温がじんわりと肌に広がり、張りつめていた心がほどけていく。
何も考えたくない。
この温もりに身を任せていたかった。