第5章 戦闘訓練
昼間の眩しい日差しとは違い、夕焼けが廊下を柔らかな赤い光で染め上げている。
結はリュックサックを落とさないように、力を込めて抱きしめながら歩いていた。
足元に視線を向けていると、黒い靴が視界に入る。
そして、聞き馴染んだ声が耳に届いた。
「結」
「……消太さん」
低く落ち着いた声に、結は顔を上げた。
そこには、相澤が普段と変わらない冷静な表情で立っていた。
彼の視線は、心配そうに結の顔色を伺っている。
「帰ったら少し寝とけ。顔真っ青だぞ」
「え、そんなに酷い顔してる?」
「あぁ」
相澤は無言で結の片頬に手を添え、親指でそっと目元を撫でた。
その優しい動作に、結は今までの疲れが一気に溶けていくのを感じた。
手の温もりが、心に染み渡っていく。
現実を忘れそうになるほどの優しさに包まれながら、結は目を閉じて短いひとときを過ごした。
「……あ、そうだ。ご飯」
「支度は後でいいよ」
「ううん。お昼ご飯、いつも食べてないってマイク先生に聞いたけど」
「アイツ、余計なことを……」
相澤は思わず溜め息をつき、バツが悪そうに頭を掻いた。
表情には軽い苛立ちが見えたが、すぐに消える。
「明日のお昼は職員室で待っててね、消太さん。学食のサンドイッチ美味しかったから一緒に食べようよ」
「わかったわかった……はい、さようなら。気をつけて帰れよ」
遠くに生徒が現れたのだろう、相澤の手がぱっと離れ、自然と先生口調に戻った。
その姿に、結の口元には自然と笑みが浮かんだ。
教室に向かって歩いていく相澤の背中を見送りながら、結もようやく帰路についた。
夕焼けに染まった校舎を背に、結はゆっくりと歩き始めた。