第5章 戦闘訓練
ホームルームが終わったばかりの教室には、まだ戦闘訓練の熱が漂っていた。
あちらこちらで振り返りが始まり、笑い声と真剣な声が入り混じる。
言葉の余熱が広がり、喧噪の奥に活気が脈打っていた。
そんなとき、ざわめきを切り裂くように爆豪が椅子を乱暴に引き、呼び止める声を振り払って教室を出ていった。
背にまとう不機嫌さに、誰も追う気配は見せなかった。
窓の外では夕陽が街を茜に染めている。
遠いビルの窓が光を返し、柔らかな色が教室にも射し込んだ。
机と椅子の影が長く伸び、淡い光と影が重なる。
結はその景色を一度だけ見ると、爆豪の後を追うように荷物をリュックへ詰め始めた。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
低い声が落ち、結の指が止まった。
顔を上げると、赤と白に分かれた髪の少年が立っていた。
左目に残る火傷の痕、張り詰めた空気をまとった眼差し。
轟焦凍。
個性把握テストでは三位、先ほどの戦闘訓練では敵役を瞬時に氷へ封じた実力者だった。
そんな目は、奥底まで覗き込むような鋭さを帯びていた。
「な、なに?」
「お前の個性、動きを止める能力と物を浮かす能力……それだけじゃねぇよな」
その言葉は真正面から突き刺さる。
結は息を浅くして視線を逸らし、荷物から手を離した。
胸の奥で冷たいものがゆっくり固まっていく。
「他にも使えんだろ? 何が使えるんだ?」
「えっと……色々と使えるんじゃない、かな……」
「自分の個性なのに、随分と自信ねぇんだな」
「……うん、ないよ」
結の声は小さく、言葉の端から力がこぼれ落ちていく。
轟の眉がわずかに動き、さらに問いを重ねようとした、そのとき。
保健室送りになっていた緑谷が戻ってきた。
両腕の包帯は痛々しいはずだが、顔には晴れやかな笑みが広がっている。
周囲からあたたかな声が返り、教室の空気が一気にほどけた。
その声に背を押され結は急いで荷物をまとめて立ち上がった。
轟の視線を振り切って一歩踏み出し、自然と緑谷の方へ向かう。満身創痍でありながら、彼は明るく笑っていた。