第1章 新しい日常
「あのさ、入試の時にデケェ敵振り回してた人……だよな? ほら、最後に出てきた秘密兵器とかいうヤツ」
「振り回して……?」
彼は大きな手振りを交えながら、雄英高校の入試で登場した巨大ロボットの話を熱心に続けた。
興奮を含んだ早口の勢いとは裏腹に、結にははっきりとした記憶がなかった。
残っているのは、ただ誰かを守ろうとした衝動だけ。
細部は靄がかかったように曖昧だった。
「多分、私……かも」
そう口にすると小さな不安が胸に疼いた。
思い出せないもどかしさと、期待に応えられるか分からない戸惑い。
そんな曇った声とは対照的に、彼の表情はぱっと明るくなる。
その笑顔は雨上がりの空に差し込む陽射しのように眩しかった。
「やっぱそうだよな!? 強ェ個性使ってたから忘れらんなくてさ。雰囲気があん時と似てたから、ついガン見しちまった! 俺、切島鋭児郎! 同じクラスになれて嬉しいぜ!」
「わ、私は千歳結。よろしくね、切島くん」
「千歳か! これからよろしくな!」
差し出されたのは、大きくて力強い手のひら。
ためらいながらも握り返すと、厚みと温かさにほっと胸がゆるんだ。