第5章 戦闘訓練
「動けなかったのは、私の個性で止めてたから。瓦礫に触れなければ、動けたと思うよ」
「いや、あれ避けんのは無理だって……」
「てか強すぎる! 俺ら見せ場ゼロじゃん!」
結の淡々とした説明に、瀬呂はがっくりと肩を落とし、そのまま床にぺたんと座り込んだ。
隣で立つ切島も唇を引きむすび、拳を強く握っていた。
頬には細い傷が走り、瓦礫がかすめたのだとすぐに分かった。
「えっ?」
「……あ」
切島の短い声に、結は自分の行動に気づく。
いつの間にか彼の頬へ手を伸ばしていた。
触れる寸前で慌てて止め、代わりにたくましい腕にそっと触れる。
「ごめんね、なんでもない。かっこよかったよ、切島くん」
「お、おう!」
結の微笑みに、切島の頬がみるみる赤くなる。
照れを隠すように、彼は声を張っていた。
「常闇くんもありがとう。黒影もすごく頼もしかった」
「俺の方こそ感謝する。おかげで任務を果たせた」
「あっ、ずりぃ! 千歳、俺には!?」
「瀬呂くんの個性、見る前に瓦礫に埋もれてたから……」
「見せ場もなかったのかよ、俺……!」
瀬呂が地面を見つめて肩を落とす。
思わず結はくすりと笑い、常闇のマントから顔をのぞかせていた黒影の頭をそっと撫でた。
「元気出せよ、瀬呂!」
力強く差し出された切島の手。
瀬呂は驚いたように顔を上げ、その手を握って立ち上がる。
大きく伸びをして、ひとつ息を吐く。
悔しさと焦りが混じっていた空気は、いつの間にか温度を変えていた。
廃墟と化した空間に漂う埃の匂いの中で、戦いを終えた四人の間に言葉を超えた友情が芽生えていく。
去り際、切島の頬にあったはずの傷は、跡形もなく消えていた。