第5章 戦闘訓練
「じゃあ、作戦通りで」
「承知」
常闇が小さく頷く。
結は右手で壁に触れ、冷たいコンクリートの感触を確かめてから後方に下がった。
「行け、黒影」
その声と同時に、黒影はマントから飛び出した。
闇の中で輪郭を膨らませ、目の前の壁へ疾走すると、轟音が建物を揺らした。
黒影の突撃で壁が豪快に崩れ、仕掛けられていた瀬呂のテープが切れ落ちる。
瓦礫が床を叩き、細かな破片が舞い上がった。
視界が白く霞み、埃と音と重さが一斉に弾ける。
「はあ!? なんだ!?」
「いってぇ! 登場の仕方おかしいだろ!」
切島は咄嗟に硬化し、落下物を防いだ。
すぐ後ろにいた瀬呂は腕を振り上げ――そして、固まる。
「なっ……!? 動けねぇ!!」
上げた腕がそのまま固定され、瀬呂の動きが完全に止まった。
見えない力に縛られたように、切島も身体が動かない。
動けるのは、ヒーロー側だけだった。
結は瓦礫を踏みつけながら二人を見据える。
崩れた壁の向こうで、常闇が黒影を操り、迷いなく室内を駆ける。
狙うは核兵器ただひとつ。
今、彼らを止められる者はいなかった。
「任務完了」
『ヒーローチームWIN!!』
小型無線機から勝利の声が弾ける。
音を背に受けながら、結は崩れた壁を越えて切島と瀬呂の方へ歩み寄った。
右手に込めていた力をそっと抜くと、二人の硬直が解け、動きが戻る。
切島が肩を回し、瀬呂は固まっていた腕を見つめた。
つい先ほどまでの無力感が嘘のように、体の感覚が蘇ったことに戸惑いを浮かべている。
崩落した壁、散らばる瓦礫、鳴り響いた勝利宣言。
状況は明白だった。
それでもあまりに急展開で、二人の思考は追いつかず、立ち尽くすしかなかった。