第5章 戦闘訓練
小型無線から合図が届き、二人は演習場の建物内に足を踏み入れる。
淡い光が埃を帯びた空気をわずかに照らし、廊下はほとんど闇に沈んでいた。
だが、暗さは常闇にとって何よりの追い風だった。
待機の時間を使い、二人は互いの個性を確認した。
常闇の“黒影”は、彼の内に宿る影を操る個性。
闇が深いほど強いが、光には弱い。
今の薄暗い環境は、最良の舞台だった。
「さて、どう攻めるか」
常闇の低い問いに、結は数秒だけ思案する。
瀬呂の粘着テープ、切島の硬化。
正面突破すれば足元を封じられ、一気に押し込まれるだろう。
「二人の個性を考えると、入口からは危ないと思う。……常闇くん、力仕事は得意?」
「闇をまとった黒影ならば、容易いことだ」
「よかった。お願いしたいことがあるんだけど――」
先ほど見た緑谷の負傷が脳裏をかすめる。
自分が倒れては意味がない。
右手の不調を意識しながら、結は無理をしない戦法を選んだ。
黒影を軸にし、自分は後衛として確実に敵を封じる、その方が勝率は高い。
「もし失敗しても後ろで援護するから、その時は切島くんと瀬呂くんの拘束をお願い」
「任せろ。黒影」
「アイヨ!」
黒影が身をかがめ、前方の気配を読む。
結と常闇は息を合わせ、音を殺して進んだ。
五階へ到達すると、黒影が指先で短く合図する。
閉ざされた扉が一つ。
向こうに罠が待っている、そんな直感が胸に灯った。