第5章 戦闘訓練
午後の授業はヒーロー基礎学。
具体的な内容は事前に明かされていなかったが、ホームルームで相澤とオールマイトが担当すると告げられた。
生徒たちはそれぞれの胸に期待と不安を抱きながら、この授業がただのカリキュラムに収まらない何かになると予感していた。
教室がざわめきに包まれている理由はひとつ、オールマイトの登場を待っているからだ。
テレビや雑誌の中でしか見たことのない“平和の象徴”を、この目で見られる日が来るとは。
そんな興奮が空気を振るわせていた。
まだ姿は現れていない。
だが、廊下の向こうから微かに漂う気配に、生徒の何人かは背筋を正し、息を飲んでいた。
「わーたーしーがー! 普通にドアから来た!!」
突如、廊下に響き渡る大きな物音。
勢いよく開いた扉の向こうから鮮やかな声と共に現れたのは、誰もが知る姿――オールマイトだった。
彼は「HAHAHA!」と陽気な笑いを響かせ、堂々と教卓へ向かっていく。
その様子は画面の存在が現実に踏み出してきたようで、生徒たちは息を呑む。
威圧感や恐怖ではない。圧倒的な「存在感」がそこにあった。
ヒーロー基礎学。
雄英高校の中でもヒーローを志す者にとって最も重要とされる科目だ。
基本の技術、精神力、覚悟を育てる真の土台となる授業。
この時間のために努力を重ねてきた者も多い。
「早速だが、今日はコレ! 戦闘訓練!!」
オールマイトはひと呼吸おいてからしゃがみ込むと、ぐぐぐと何かを頭上に掲げた。
それは「BATTLE」と大きく英字で書かれた看板だった。
誰もが自分の力を試す瞬間が来たのだと理解する。
そして、オールマイトの合図とともに、教室の一角に仕掛けられていた棚が音を立ててせり出した。
ずらりと並んだケースには、出席番号がひとつずつ振られている。
「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!」
彼の指示に従い、生徒たちは男女別に分かれて更衣室へ向かっていく。
ケースの中には入学前に提出した個性届に基づき、細かな要望まで反映された特注のヒーローコスチュームが収められていた。
それをまとった彼らの一日は、ここから本当の意味で始まろうとしていた。