第1章 新しい日常
――そのときだった。
ガタンッ、と勢いよく物がぶつかる音が響き、教室中の視線が一斉に扉へ向く。
廊下から現れたのは、薄い金色の尖った髪に鋭い目をした少年、爆豪勝己だった。
周囲を威圧するような迫力をまとい、歩くたびに床が揺れる錯覚すら覚える。
誰の視線にも動じることなく自席へ向かった彼は、椅子を乱暴に引いて腰を下ろし、そのまま机に両足を乗せた。
そんな無遠慮な動作が教室の空気を凍らせた。
次の瞬間、静けさを割るように足音が響く。
メガネの奥に真っ直ぐな正義を宿した飯田が、歩幅を乱さず爆豪の前に立った。
そして、当然だと言わんばかりに指先まで整えた手を向けた。
「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や、机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ! てめーどこ中だよ、端役が」
「俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
「聡明~!? くそエリートじゃねえか、ブッ殺し甲斐がありそだな」
「ブッコロシガイ!? 君ひどいな、本当にヒーロー志望か!?」
爆豪の物騒な言葉にたじろぎながらも、飯田は信念に基づいて注意を続ける。
しかし、爆豪のしかめっ面には苦戦しているようだった。
教室が不穏な空気に包まれる中、結はふと顔を上げる。
頬に刺さるような熱を感じて視線の先を追うと、赤く逆立った髪の少年がこちらをじっと見つめていた。
二つ席を隔てた距離。
ほんの少し勇気があれば越えられるはずなのに足は動かない。
視線が重なったまま、言葉が出ずに沈黙だけが場を焦がしていく。
結の表情が曇った、その瞬間。
少年は椅子を引いて立ち上がり、一歩、また一歩と結の席へ歩み寄ってきた。