第4章 二人だけの時間
「出来る限り努力します、ね」
「繰り返さないで……」
「最下位にはなりません、って心配すんのはそこじゃないのに」
「……もういいよ……分かってるから……」
食器を片づけ終えた結はリビングへ戻り、相澤の背後を通ってソファの裏側へ立った。
頬に宿る熱がじわりと広がり、胸の奥がくすぐったい。
視線を合わせるのが気恥ずかしく、結はうつむいたまま気配を潜めた。
「そんなところに隠れても意味ないだろ」
「……考え込む必要なかった」
「なんだ、拗ねてるのか?」
「今日の消太さん、嘘つくし」
「あれは、アイツらを奮い立たせるには手っ取り早い方法だったからな。まあ、手を抜いた割に総合一位はよくやった」
相澤がソファの背から身を乗り出し、結の頭をそっと撫でた。
触れた途端、肩がわずかに震える。
それでも結は拒まず、目を細めてその温度を受け入れた。
しばらく撫でた手が、包帯の巻かれた結の右手に触れる。
湿り気の残る指先は、まだ冷たかった。
「まだ痛いか?」
「ううん、大丈夫。あとで包帯外さなきゃ」
「次から気をつけろ。危なっかしいからな、お前は」
そこで言葉を切り、相澤は机に広げた書類へ視線を戻す。
一枚を取り上げ、目を走らせながら「先に風呂入っていいぞ」と淡々と告げた。
咎める調子はない。結はその場に立ち尽くし、足元に視線を落としたまま小さく声を落とす。