第4章 二人だけの時間
「ねえ、消太さん」
「どうした?」
手を止めて顔を上げた相澤と目が合う。
その表情が、ほんの少し柔らかくなる。
結が何を求めているのか、言われなくても分かっていた。
「今日も隣で寝ていい?」
「……いちいち聞かなくていいって言ってるだろ」
「うん。いつも言われてる」
再び書類に視線を戻した相澤は、ペン先を軽く弾いた。
短い沈黙の間にも、部屋の空気はどこかあたたかい。
そこに流れる穏やかさを、結は毎夜のように確かめてしまう。
確認せずには眠れない夜もあった。
だが、聞けば返ってくる答えが同じだと分かっているからこそ、胸の奥がふっと緩む。
「早く入ってこい」
促す声には、呆れよりも柔らかな気遣いが滲んでいた。
合理的な彼からすれば、同じ確認を繰り返す行為は意味をなさないのかもしれないが、相澤は一度として拒まなかった。
問いの裏にある不安も、言葉にならない甘えも、そっと受け止めてくれていた。
「やっぱり、消太さんは優しいね」
結はそっと振り返り、ふわりと微笑んだ。
言葉より深く染みる安堵と、小さな幸福がその表情に宿っていた。