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お友達から始めよう【ヒロアカ】

第4章 二人だけの時間


 今朝より少し重くなったリュックを背負い、結は制服のポケットに詰めた菓子が落ちないよう慎重に歩いていた。
 通学路のアスファルトに伸びた影が風に揺れる。
 雄英高校から歩いて数十分。
 緑に囲まれた住宅街の一角にある落ち着いたアパート。
 そこが結と相澤の帰る場所だった。
 身寄りのなくなった結を保護したのが相澤で、二人の暮らしはそこから始まった。

 木々の匂いに混じって、どこか懐かしい気配が漂う。
 人影もまばらな通りを進みながら、リュックから携帯端末を取り出し、時刻を確かめた。
 今は午後三時を少し過ぎたところ。
 校舎を出た直後、相澤から「夕方には帰る」と連絡が来ていたことを思い出す。
 特別な予定のない時間をどう過ごそうか考えつつ、家の扉を開けた。


「ただいま」


 静かな室内へ向けた声は優しく吸い込まれていった。
 結はリュックを下ろし、制服をクローゼットにしまい、手早く部屋着へ着替える。
 荷物を所定の場所に戻している間、机の上の端末が何度か震えたが、結は気づかないままだった。

 片づけを終えると、上着を手にして部屋を出る。
 窓辺の陽は金を帯び、夕暮れの気配が近づいていた。
 冷えた風が頬を撫で、肩を縮めながら袖に腕を通す。
 そのとき、ポケットの奥で微かな振動が伝わった。

 画面には三件の不在着信。
 登録名は“友達”。
 初期設定のままの無機質なアイコンが、淡々と履歴を並べていた。
 結は少しだけ笑みを浮かべ、迷わず通話のアイコンを押した。
 呼び出し音は一度だけで切れ、すぐに相手が応答する。


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