第4章 二人だけの時間
「お! 一位が帰ってきた!」
「怪我は!? 大丈夫!?」
「いやー、すごかったよな。飯田みてぇにビュンってさ!」
「立ち幅跳びもすげー飛んでたぜ!? どんな個性だよ!?」
「ひ、一人ずつ……」
教室の扉を開けた瞬間、結は熱気に包まれた。
放課後の空気にゆるんでいたはずの教室が、結の姿を捉えた途端、合図を受けたかのようにざわめき出した。
クラスメイトたちが立ち上がり、次々と声をかけてくる。
興奮した表情で身を乗り出し、次々と質問が飛ぶ。
その中心で、結は思わず立ちすくんでいた。
囲まれた空間に自分一人が取り残された感覚を覚える。
好意的な視線と声援であることはわかっていたが、それでも圧倒されるのを止められなかった。
「待てよ、みんな! 千歳困ってっから順番に! な!?」
「あ、悪い悪い」
切島の声が騒がしさを打ち破る。
間に割って入り、両腕を広げて結の前に立ちはだかった。
クラスメイトたちは照れたように後ずさり、気まずそうに視線をそらす。
だが、彼らの興味は収まることなく、まっすぐに結へと向けられていた。
「け、怪我はもう大丈夫だよ」
「よかったぁ、みんなで心配してたんだー!」
「心配かけてごめんね、えっと……」
先頭にいた少女が安心したように息をついた。
結も笑みを返そうとして、ふと目を凝らす。
目の前にいるはずの少女の姿は透明で、視界に映るのは空間の歪みと制服の輪郭だけ。
しかし、そこには確かに「誰か」がいる。
「葉隠透です! よろしく、結ちゃんー!」
個性"透明化"の葉隠の手が結の左手を包み込む。
見えない掌から伝わってきたのは、まっすぐな好意と隠しきれない喜びの温度だった。
ぬくもりを感じながら、結はそっと握り返した。