第4章 二人だけの時間
「俺、上鳴電気! よろしくー!」
「芦戸三奈だよー! よろしくね!」
「俺は瀬呂範太。知ってると思っけど」
「おい、マウント取るなよ」
明るい声が弾み、続いて砂藤力道、尾白猿尾、常闇踏陰が順に名乗り、結はひとりひとりと丁寧に向き合った。
最初は固かった距離が、すれ違いざまの光が射すように少しずつほどけていく。
「そうだ。よければ、これ」
結はポケットに指を滑らせる。
たっぷり詰め込まれた菓子が指先に触れた。
次の瞬間、菓子がふわりと浮き上がり、それぞれの掌へと落ち着く。
クラスメイトたちは驚きと喜びを映したまま菓子を見つめ、小さな宝物を受け取ったように表情を輝かせた。
「リカバリーガールにもらったけど、ちょっと多すぎたから」
「やったー! ありがと!」
「有難く頂こう」
「サンキュー! てか、千歳の個性って麗日みてぇな無重力系なん?」
「んー……まあ、そんな感じかな」
柔らかく質問を逸らしつつ、結もひとつ飴を口に含む。
舌の上でゆっくり溶ける甘さが、今日の疲れを撫でていった。
この飴には治癒の作用があり、それを知った者たちは一口ごとに表情を緩めていく。
葉隠と芦戸が顔を綻ばせ、上鳴たちも「癒されるわー」と小さく声を漏らす。
穏やかな笑い声が教室に満ち、騒がしかった一日の終わりがようやく訪れていた。