• テキストサイズ

お友達から始めよう【ヒロアカ】

第3章 君の味方に


「そうだ、消太さんに怪我の様子を聞かれたら、治ったよって伝えてください」
「なんだい! まだ言ってなかったのかい!?」


 突然、机に叩きつけられたペンの音と怒声が保健室に響いた。
 結はびくりと肩を震わせ、凍りついたように動けなくなる。
 ゆっくりと振り向くと、リカバリーガールの目には怒りがはっきりと浮かんでいた。
 先ほどまでの優しさは影を潜め、真剣なまなざしが突き刺さる。
 結は何も言えずに、立ち尽くすしかなかった。


「イレイザーには個性の反動について話しておけと! そんなんじゃいつになっても治らないままだよ!」
「しょ、消太さん、忙しそうだったから……」
「前にも同じこと言って! 毎日会っているんだ、時間はたくさんあっただろう!」


 怒りに満ちた声とともに、リカバリーガールは手にした杖で結の左足を軽く叩いた。
 痛みはなかったが、その一撃には彼女の深い心配がにじんでいた。


「先に、自分の限界を知りたくて……。さすがに隠せなくなったら、話そうと思ってます。だから、まだ内緒で」
「我儘がバレるのは時間の問題だよ」
「わがまま……そう、ですね」


 言葉にした自分の覚悟は、無謀さと紙一重だった。
 理解しているつもりでも、胸の奥に釘を打たれるような痛みが残った。
 そんな結の様子に、リカバリーガールは溜め息をつきながら、引き出しから小さなクッキーの袋を取り出す。


「今回は見逃すけど、次はないよ。それと、食べ歩きはお行儀が悪いからしないように。気をつけて帰るんだよ」
「……はい。ありがとうございます」


 そう言って、結の制服のポケットにクッキーの袋を押し込む。
 声は柔らかく戻っていたが、まだ心配の色が残っていた。

 結は静かに頭を下げ、保健室を後にする。
 制服の両ポケットにはお菓子がたくさん詰まっていた。
 歩き出しながら、手を差し入れると包み紙の感触が指先に伝わる。その温かさが少しだけ、心を和らげてくれた。


/ 179ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp