第3章 君の味方に
「そうだ、消太さんに怪我の様子を聞かれたら、治ったよって伝えてください」
「なんだい! まだ言ってなかったのかい!?」
突然、机に叩きつけられたペンの音と怒声が保健室に響いた。
結はびくりと肩を震わせ、凍りついたように動けなくなる。
ゆっくりと振り向くと、リカバリーガールの目には怒りがはっきりと浮かんでいた。
先ほどまでの優しさは影を潜め、真剣なまなざしが突き刺さる。
結は何も言えずに、立ち尽くすしかなかった。
「イレイザーには個性の反動について話しておけと! そんなんじゃいつになっても治らないままだよ!」
「しょ、消太さん、忙しそうだったから……」
「前にも同じこと言って! 毎日会っているんだ、時間はたくさんあっただろう!」
怒りに満ちた声とともに、リカバリーガールは手にした杖で結の左足を軽く叩いた。
痛みはなかったが、その一撃には彼女の深い心配がにじんでいた。
「先に、自分の限界を知りたくて……。さすがに隠せなくなったら、話そうと思ってます。だから、まだ内緒で」
「我儘がバレるのは時間の問題だよ」
「わがまま……そう、ですね」
言葉にした自分の覚悟は、無謀さと紙一重だった。
理解しているつもりでも、胸の奥に釘を打たれるような痛みが残った。
そんな結の様子に、リカバリーガールは溜め息をつきながら、引き出しから小さなクッキーの袋を取り出す。
「今回は見逃すけど、次はないよ。それと、食べ歩きはお行儀が悪いからしないように。気をつけて帰るんだよ」
「……はい。ありがとうございます」
そう言って、結の制服のポケットにクッキーの袋を押し込む。
声は柔らかく戻っていたが、まだ心配の色が残っていた。
結は静かに頭を下げ、保健室を後にする。
制服の両ポケットにはお菓子がたくさん詰まっていた。
歩き出しながら、手を差し入れると包み紙の感触が指先に伝わる。その温かさが少しだけ、心を和らげてくれた。