第16章 手放せない温度
短く低い声が促す。
男は無表情のまま、ゆっくりとマスクを顎まで下げた。
結を見つめるその瞳には感情が読めず、口元から耳、顎にかけて荒れた皮膚が不自然に繋ぎ止められている。
縦に並んだ四つの金具が唇から下へと続き、鈍く光を反射していた。
両方の下瞼にも同じ傷跡が広がり、それらは壮絶な過去の痕跡のように見える。
だが、結は驚く様子も戸惑う様子もない。
いつものように彼を見つめ、静かに手に持ったソフトクリームへ視線を落とす。
それは柔らかな白い螺旋が陽射しを浴び、淡く輝いていた。
「さっき、子供騙しだって……」
「覚えてねェな。早くしろ」
ちらりと周囲を見渡す男の仕草に、結は小さく息を吐いた。
先程の言葉が胸の奥にくすぶるが、言い返したところで意味はない。
仕方なく手にしていたソフトクリームを差し出すと、男は迷うことなく、先端を大きく舌で舐め取った。
「は、半分も……それも、舌で……」
崩れた螺旋。
白いクリームがわずかに滴り、甘い香りが鼻をくすぐった。
「食わねェのか?」
「……絶対、わかっててやったでしょ」
「さァ? 溶けちまうぞ」
涼しげな声は、まるで何事もなかったかのように淡々としていた。
結はわずかに頬を膨らませるが、男は肩をすくめて再びソフトクリームへと視線を戻した。
そんな態度にため息をつきつつ、仕方なく溶けかけた先端に口をつける。
甘さがふわりと広がり、微かにひんやりとした冷たさが舌を包んだ。