第3章 君の味方に
「チユーー!!」
軽い音とともに、腫れた指があっという間に元の形へ戻っていく。
彼女は棚から包帯を取り出し、慣れた手つきで巻きつけた。
その下にある指は、最初から傷などなかったかのように回復している。
「すごい、治った……! けど、なんか疲れがドッと……」
緑谷は椅子にもたれ、小さく息を吐く。
全身にじんわり広がる倦怠感は、骨の奥から重みを伝えてくるようだった。
「私の個性は、人の治癒力を活性化させるだけ。治癒ってのは体力が要るんだよ。大きな怪我が続くと、体力消耗しすぎて逆に死ぬから気をつけな」
「逆に」
「死ぬ!?」
声を揃えて固まる二人に、リカバリーガールは白衣のポケットからキャンディーを取り出した。
有名ヒーローのイラストが描かれた包み紙がくるりと光を弾く。
それを数粒、緑谷の手に握らせた。
「痛みが引いたなら、気をつけて教室に戻るんだよ。無理はしないように」
「は、はい! ありがとうございました!」
緑谷は深々と頭を下げ、帰る支度を始めた。
扉へ向かう途中、ふと足を止める。
振り返ると、結が背を向けたままリカバリーガールに右手を差し出していた。
「千歳さん」
「ん?」
痛みを抑えてくれていたことも、順番を譲るために個性を解いたことも、緑谷は気づいていた。
声をかけると、結は椅子ごと振り向き、穏やかな眼差しを向けた。
「さっきは助けてくれてありがとう! 千歳さんも、お大事にね」
包帯を巻かれた右手が、別れの合図のように揺れる。
それを見て、結もそっと左手を振った。
「……そうだ、緑谷くんに伝えたいことがあるの」
「伝えたいこと……?」
「うん。私は、何があっても君の味方だよ」
その言葉は、ふいに胸の奥へ差し込んだ光のようだった。
あたたかくて、沁みる感覚。
緑谷はほんの一瞬、呼吸すら忘れて頷くことしかできなかった。