第3章 君の味方に
保健室の前にたどり着いた二人は、小さく声をかけた。
返事とともに扉が開き、優しげな雰囲気をまとった小柄な老女が顔をのぞかせる。
雄英高校の看護教諭にして、治癒ヒーロー・リカバリーガール。
希少な治癒の個性を持ち、どんな怪我にも向き合ってきた彼女は、生徒たちの安心そのものだった。
腫れた緑谷の指に視線を向け、続いて結の様子を確かめる。
彼女は何も言わず、二人を椅子へと促した。
老いてなお鋭い眼差しの奥には、長年の経験が宿っている。
「さて、と。前よりは手加減をして怪我した子と……アンタさんは右手をやったのかい?」
「あ、私は後で大丈夫です。先に緑谷くんをお願いします」
「えっ!? ぼ、僕も後でいいです! 今は、千歳さんの個性のおかげで――」
緑谷は痛みが消えていることを伝えようとした。
だが、言葉は途中で途切れ、咄嗟に右手を押さえた。
ボール投げのときと同じ激痛が、容赦なく走ったのだ。
視界が滲み、声が出ない。
緑谷は背を丸め、痛みから逃れるように身を縮めた。
原因は、結の個性だった。
緑谷に順番を譲るため、痛みを抑える力をそっと解いたのだ。
彼の涙を見つめながら、結は申し訳なさそうに目を伏せた。
「……この状態なので、緑谷くんを優先した方が」
「事情はよーくわかったよ。ほら、体こっち向けな」
リカバリーガールは道具に頼ることなく近づいた。
そして、小さく唇を突き出して彼の腕に口づけた。