第1章 新しい日常
「一年の教室は……あ、あった」
同じ制服の背中を追いながら、ガラス張りの校舎へ足を踏み入れる。
光に満ちた建物は、未来そのものが形になったようだった。
案内板を頼りに一年生の階へ向かう。
廊下はどこまでも続き、背の高い天井が心を少しだけ圧倒する。
いくつかの教室を通り過ぎた先に、背丈よりはるかに大きな扉が現れ、プレートに刻まれた文字が目に飛び込む。
ヒーロー科、一年A組。
合格通知を手にしたあの日から、現実感はどこか浮ついたままだった。
深く息を吸い込み、瞼を閉じ、ゆっくり開く。
春の光がわずかに反射して視界が揺れる。
結は小さく震える指先に力を込め、扉を静かに押し開けた。
「やあ、おはよう! 俺は飯田天哉だ。今日から同じA組の仲間としてよろしく頼むよ!」
「お、おはよう。えっと、千歳結です。よろしくね」
扉が開くと同時に、規律正しい声が教室に響いた。
話しかけてきたのは、整った七三分けにスクエアメガネをかけた少年、飯田天哉だ。
すでに何人もの生徒へ挨拶してきたのだろう。
迎え入れる側の代表のような落ち着きと真面目さが、言葉の端々に滲んでいた。
そんな熱量に少し圧されながらも、結は軽く会釈をして教室を見回した。
ざわめく空気の中、自分の席を見つけて歩いていく。
椅子に腰を下ろして深呼吸をひとつすると、握りしめていた指先の力をそっとほどいた。