第1章 新しい日常
やがて車通りの多い道に出ると、遠くに広大な敷地に佇む校舎が見えた。
数日前まで通っていた中学校の記憶が霞むほど、空を背負って堂々とそびえる姿は何度目にしても息を呑む。
夢を形にする場所、国立雄英高等学校。
幾多のプロヒーローを輩出した、名実ともに頂点に立つ学び舎だ。
フレイムヒーロー、エンデヴァー。平和の象徴、オールマイト。
その名を聞いただけで人々の心を震わせるヒーローたちが、この場所から羽ばたいていった。
目指すべき背中は遠い。
だが、彼らと同じ校舎を歩くという現実が、結の胸に火を灯していた。
もちろん、簡単な道のりではない。
日々の訓練の先には過酷な試練が待ち、人の命を守るためには妥協も迷いも許されない。
時には心が折れそうになることもあるだろう。
それでも、既にその壁を越える覚悟を決めていた。
「一年の教室は……あ、あった」
少し震えた声が案内板の前で漏れた。
同じ制服を着た生徒たちの背を追いかけて、ガラス張りの校舎へ足を踏み入れる。
光に満ちた建物は、未来そのものが形を成しているようだった。
一年生の教室が並ぶ階を目指して階段を上がる。
校舎の中はどこまでも続く廊下と、高い天井の空間が広がっていた。
ふと気を抜けば迷いそうな構造に小さな不安が芽生えるが、足を止めることはなかった。
いくつかの教室を通り過ぎ、背丈の何倍もある大きな扉の前に立つ。
プレートに刻まれた文字が視界の中心で揺れていた。
ヒーロー科、一年A組。
合格通知を手にした日からすべてが現実味を欠いていた。
この扉の前に立ったことで、始まりが近づいているのを感じた。
緊張と期待がせめぎ合い、呼吸がうまく整わない。
深く息を吸い込み、瞼を閉じ、目を開ける。
春の陽射しが瞳に微かに反射した。
そして、両手に力を込めて、その扉を静かに押し開けた。