第3章 君の味方に
「気にしなくていいのに。でも、ありがとう。緑谷くん」
「……え、あ」
不意に向けられた結の笑顔に、緑谷の胸が大きく跳ねた。
一拍の衝撃が全身へ広がり、体がふわりと熱を帯びる。
鼓動は早まり、思考が追いつかない。
足元が揺れた気がしたが、なんとか踏みとどまった。
――これも彼女の個性の影響なのか、それとも。
対して結は落ち着いた様子で「こんなふうに褒められるの、初めてかも」と小さく呟く。
その一言で、緑谷の思考はまた揺さぶられた。
「あれ……どうしたの?」
「えっと、千歳さんが微笑んだ時、急に暑くなって……これも個性の影響、なのかな?」
ぱちり、と結のまつげが揺れた。
二度瞬く仕草が、心当たりのなさを物語る。
右手に目を落とし、次いで緑谷の手元へ視線を移すと、結の表情がすっと青ざめた。
「……私にも、分からない。先生のところに急ごう」
「う、うん!」
結が歩き出すと、緑谷も慌てて背を追った。
先ほどの熱とざわつきはいつの間にか落ち着き、緑谷の心に違和感だけを残していた。