第3章 君の味方に
彼の緊張がほどけ、表情が和らいでいく。
自然と目が合い、あたたかな沈黙が流れた。
ふと、結は今朝のことを思い出し、切島を見習って左手を差し出した。
まだ痺れていたが、それ以上に気になったのは緑谷の右の人差し指だった。
投球のときと同じく、赤黒く腫れ上がっている。
その様子に左手をそっと下ろし、代わりに不自由な右手を差し出した。
緑谷は驚きながらも握り返したが、その手は驚くほど冷たかった。
体温が通っていないようで、力も弱い。
「それじゃあ、行こっか」
問いかけるよりも早く手が離れた。
緑谷が立ち尽くすのを横目に、結はゆっくりと保健室へ向かって歩き出す。
「えっ……?」
緑谷は右手をじっと見下ろした。
指先に広がった感覚は、相澤に個性を無効化されたときのような、ふっと空白が生まれる感触だった。
――さっきまでの痛みが、消えている。
押しても、叩いても、軽く反らしても痛まない。
あまりに静かで逆にざわつく違和感。
その不自然さが、驚きから確信へと変わっていく。
「ま、待って! 急に痛みが消えたんだけど……これ、君の個性なの!?」
裏返った声に呼び止められ、結が足を止めて振り返る。
そこには、右手を押さえたまま、目を見開く緑谷の姿があった。