第2章 本気の裏側
「お疲れ」
それだけを告げて、相澤は迷うことなく許可証を差し出した。
まっすぐな動作に戸惑いながらも、結はそれを見つめる。
「えっと、これは?」
「書いてある通りだ。手、ばあさんに治してもらえ」
「いつから気づいて……」
「長座で動きが不自然だったからな。どこで怪我したのかは知らんが、誰でも気づくぞ」
見抜かれていた事実に、結はうっすら眉を下げた。
驚きと少しの悔しさが混ざるその表情には、子どもが秘密を見破られた時のような心の揺れが滲んでいた。
「バレないと思ってたのになぁ」
相澤はそれに気づいているのか、表情を変えずに手元の紙をひらひらと揺らした。
右手で取れるものなら取ってみろと挑発する。
結は仕方なく、痺れて動かない右手ではなく左手を伸ばした。
しかし、見越していた相澤はするりと紙をかわす。
紙は宙に舞うように動き、結の手は何度も空を切った。
小さな背が伸びるたび、軽やかに逃げていく。
二人の身長差は明確だった。
それでも結は精一杯つま先を伸ばす。
そんな姿に、相澤の口元がわずかに綻んだ。
「……消太さん!」
「もう意地悪しないよ」
他の生徒たちの視線が届かない場所で、相澤は猫をからかうような優しさを滲ませた。
普段は見せない柔らかな一面に、結の胸の奥がふわりとあたたまる。
やがて、ふわりと落ちてきた許可証が手元に収まった。
紙に触れた瞬間、かすかな温もりが指先に伝わる。
まるで、見えない優しさが形になったもののようだった。