第2章 本気の裏側
「教室に置いてある書類に目を通しておけ」
相澤はそう言い残し、教室へ向かう生徒たちの横を無言で歩く。
まず緑谷のもとへ向かい、保健室の許可証を手渡す。
そのまま足を進め、次に立ち止まったのは結の前だった。
「お疲れ」
短く告げられた声は、いつもより柔らかかった。
相澤は迷いなく許可証を差し出す。
結は戸惑いながらも、その紙を見つめた。
「えっと、これは……?」
「書いてある通りだ。手、ばあさんに治してもらえ」
「い、いつから気づいて……」
「長座で動きが不自然だったからな。どこで怪我したのかは知らんが、あれは誰でもわかる」
見抜かれていた事実に、結は小さく眉を下げた。
驚きと少しの悔しさ、秘密を見破られた子どものような心の揺れが表情に混ざる。
「……バレないと思ってたのになぁ」
相澤は表情を変えず、許可証をひらりと揺らして見せた。
右手で取れるものなら取ってみろと、語る仕草だった。
結は仕方なく、痺れて動かない右手ではなく左手を伸ばす。
だが、それを読んでいた相澤はするりと紙をかわした。
許可証は宙を舞うように逃げ、結の指先は空を切る。
二人の身長差は明白だった。
それでも精一杯つま先を伸ばす結の姿に、相澤の口元がわずかにゆるんだ。
「……もう、消太さん!」
「悪い悪い、ほら」
他の生徒たちの視線が届かない場所で、相澤は猫をあやすような優しい気配を滲ませた。
普段は見せない一面に、結の胸の奥がふっとあたたかくなる。
やがて、ふわりと落ちてきた許可証が結の手に収まる。
紙に触れた瞬間、かすかな温もりと優しさが指先に残った。