第3章 君の味方に
ぞろぞろと疲れを感じさせる足並みで教室に向かうクラスメイトとは逆の方向に結は歩いていく。
その道中でオロオロと困った様子の緑谷が目に映った。
相澤から受け取った用紙を手に持ち、扉を一つ一つ確認している姿は迷子になった子供のようで。
「保健室ならこの先にあるよ」
「わっ!?」
「私も治してもらえって先生に言われたから、一緒に行こうよ緑谷くん」
見て見ぬふりなどできず、結は丸くなっている背中に声をかけた。
背後から突然聞こえた声に緑谷は反射的に上擦った声を上げる。
丸まった背中は棒のように真っ直ぐと伸びた。
「ごっ、ごごごめん! 急に声が聞こえたからびっくりしちゃって……!」
「こっちこそ、驚かせてごめんね」
「いやいや! 千歳さんが謝ることじゃないよっ……!」
「あれっ。私の名前、知っててくれたんだ」
二人が会話をするのは初めてのことだった。
緑谷の名前は複数人に呼ばれていたため自然と覚えてしまったが、結は片手で数えられる程度しか呼ばれていなかった。
「なっ、何度か相澤先生に呼ばれてたのが聞こえて……あと、強い個性だったから、覚えてしまって……盗み聞きしてごめん!」
「盗み聞きは私も同じだから気にしないで。改めてこれからよろしくね、緑谷くん」
「う、うん! こちらこそよろしく、千歳さん……!」
視線が合うと結はふと今朝の出来事を思い出した。
仲良くなるためにまずは握手を交わそうと、切島を見習って少し痺れのある左手を差し出す。
だが、緑谷の右手人差し指はボール投げの時と変わらず赤黒く腫れ上がっていた。
それに気付くと、咄嗟に自由の効かない右手とすり替えた。
快く握手に受け応えた緑谷は人肌とは思えないほどに冷たく、僅かな力さえ残っていない感触に違和感を覚えた。