第2章 本気の裏側
「先生……! まだ、動けます!」
涙に濡れた瞳で緑谷が叫ぶ。
握り締めた右手の人差し指は腫れ、赤く膨れていた。
入試では一撃で腕全体を壊していた彼が、今は指一本に力を集め、扱おうとしている。
その変化に、誰もが息を呑んだ。
だが、ひとりだけ、別の感情を抑えきれない者がいた。
「どーいうことだ! ワケを言え、デクてめぇ!!」
怒声と爆発音の余熱をまといながら、緑谷の幼馴染である爆豪が飛び出した。
その顔に宿っていたのは驚きではなく、濃い苛立ちだった。
個性の発現は通常なら四歳前後。
誰よりも早く力を得て、誰よりも強くあろうとしてきた爆豪にとって、“無個性”とされていた緑谷が力を使った事実は、容易に飲み込めるものではなかった。
――なぜ、あいつが。なぜ、今さら。
胸の奥で積み上げてきたものが揺らぐ感覚が走る。
焦りを覆い隠して、怒りだけが表に出ていた。
爆豪は緑谷へ詰め寄ろうと個性で踏み込む。
だが、その身体が途中で不自然に止まった。
「ぐっ、んだこの布固っ……!!」
後方から伸びた灰色の布が、爆豪の全身に絡みつく。
動きを封じたのは相澤の捕縛布だった。
顔の周りまで隙なく締められ、同時に個性もかき消される。
「炭素繊維に、特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器だ。ったく、何度も個性使わすなよ……俺はドライアイなんだ」
相澤の声は淡々としているが、どこか呆れが滲んでいた。
赤く光る瞳が細まり、真っ直ぐ爆豪を見据えている。
誰かが「個性すごいのにもったいない!」と声を上げたが、相澤は微動だにしない。
評価にも賛辞にも興味を示さず、時間を惜しむように次の投擲者を呼び寄せた。