第2章 本気の裏側
「な……今、確かに使おうって」
「個性を消した。つくづくあの入試は……合理性に欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう」
淡々とした声が空気に溶け込む。
相澤の目が赤く光り、髪が逆立っている。
個性を発動した姿を見た瞬間、結は反射的に肩を強張らせた。
彼が「本気」を見せる場面を、これまで幾度となく見てきたからだ。
「消した、あのゴーグル……そうか! 視ただけで人の個性を抹消する個性、抹消ヒーロー・イレイザーヘッド!」
緑谷の声は震えていた。
捕縛布の揺れた隙間から、黄色いゴーグルが覗く。
相澤の正体に気づいたのは、緑谷と結だけ。
他の生徒たちはまだ半信半疑で「名前は聞いたことある」「アングラ系だよ」とひそひそ声を交わしている。
相澤はメディアを嫌い、素顔もほとんど出さない。
名だけが独り歩きし、実像を知る者は少なかった。
捕縛布を操り、緑谷を引き寄せた相澤は「お前の力じゃ、ヒーローにはなれないよ」と短く言い捨てる。
緑谷の目が揺れ、唇がかすかに震えた。
そこには、諦めと決意が入り混じっていた。
相澤は個性を解除すると、緑谷を円の中心へ戻す。
「指導を受けていたようだが……」
「除籍宣言だろ」
飯田の言葉に爆豪が鋭く割り込んだ直後。
緑谷が何かを振り払うように球を全力で投げた。
轟音が空気を裂き、地面が震え、球は視界から消える。
先ほどの一投とはまるで別物だった。
残ったのは、吹き抜ける風と深い沈黙。
そこに立っていたのは“無個性”の少年ではない。
自分の意志で限界を越えようとする、ひとりのヒーローの卵だった。