第2章 本気の裏側
「投げまーす」
短く宣言してから、結は黙り込んだままの相澤へ視線を送った。
そして、掌に収まる球を“念力”で押し出す。
球は空気を裂き、風に乗って高く伸びていく。
ほどなくして、端末に数値が浮かび上がった。
麗日の“無限”には届かないが、1000メートルを軽く超える記録が表示されていた。
「……千歳」
「先生らしくないな、と思って」
歓声にかき消されそうになりながらも届いた言葉に、相澤は沈黙で応えた。
何か言いかけたような気配を漂わせながらも、ここでは口にしない。
結の手から球を受け取った相澤は、そのままの流れで次の生徒へ無言で投げ渡した。
「お疲れ、千歳!」
待機列に戻ると、切島が真っ直ぐな声を届けた。
笑顔とともに掲げられた拳は、真っ赤な太陽のようにまぶしい。
隣で瀬呂が「おつかれさーん」と肩の力を抜いた声を上げ、自然に両手を差し出した。
結は少し戸惑いながらも、その手に自分の手を重ねた。
次の瞬間、右手に違和感が走る。
すぐに消えるはずのそれは、じわじわと広がり、感覚を遠ざけていった。
不安が胸の奥に冷たく沈む。
これは一時的なものなのか、それとも。
答えのない問いだけが静かに心の中で渦を巻いていた。