第2章 本気の裏側
「今から本気で取り組め。残り三種目も、楽に終わらせようとしてるの見えてるぞ」
淡々とした言葉に妥協を許さぬ意志が光る。
一方で、結の胸には小さな抵抗が残っていた。
最下位さえ免れればいい。
目立ちたくない。
それ以上を求められるのが怖い。
そんな思いが、全力を出すことへの躊躇としてこびりついていた。
絶対に除籍は避けられるのに――と、漏れた独り言はすぐさま相澤の鋭い声にかき消される。
逃げ場を与えてくれない。
そう覚悟した結は唇をむすび、そっと一歩踏み出した。
「消太さんって、未来予知の個性も持ってたの?」
「っ、おい」
相澤の動きが止まる。
揺れた視線が、言葉を失ったのを物語っていた。
その一瞬の隙を結は逃さなかった。
指先を伸ばし、相澤の手には触れずに、握られたボールの表面だけをなぞる。
間接的な接触で個性の発動条件が満たされた。
次の瞬間、相澤の手から力が抜け、球は重力に従って落ちた。
結はそれを素早く拾い上げ、白線の内側へ歩を進める。
手の中の球はわずかに温かかった。