第2章 本気の裏側
テストは再び、ソフトボール投げへと移った。
爆豪を除く二十人の生徒は、それぞれの個性を惜しみなく使い、中学時代の記録を次々と塗り替えていく。
その中で、ひときわ目を引いたのは麗日だった。
“無重力”で放たれた球は、記録を測ることもできないほど遠くへ消え、運動場は大歓声に沸いた。
そして、結の順番が訪れる。
本来なら自然に渡されるはずのボールは、相澤の手の中にとどまったままだ。
距離を詰めても、球は離れない。
指にかかる力は意地悪とも指導とも違う。
結は小さく息を吸い「ボールください」と両手を差し出した。
相澤は短い沈黙ののち、手のひらに球を置いたが、手は離れない。
結が掴もうとしても、びくともしなかった。
「あの、ボールを……」
「お前、まだ力抜いてるな?」
低く落ちる声は「本気を見せろ」と背中を押す圧そのものだった。
周囲では汗を拭う生徒たちが肩で息をしている。
その中で、どこか余裕のある結の姿は目立っていた。
「まさか、除籍処分を免れればいい、なんて考えてないだろうな?」
「……い、いや? そんなつもりは」
「図星だろ」
小さくこぼれた返事は、声というより呼気に近かった。
まさか、こんなに早く真正面から向き合わされるとは思っていなかった。
教師としての彼の眼差しは、静けさの奥に鋭い熱を宿していた。