第16章 手放せない熱
「……もしかして、人酔いしちゃった? 大丈夫?」
人混みが苦手なことは知っていたが、それでも気に留めずにはいられない。
ベンチにもたれて空を仰ぐ男の前に、白く輝くソフトクリームをそっと差し出した。
「これ食べたら、少し元気になるかも」
「いらねェ。子供騙しの食いモンだろ」
「ひどい言い方……でも、なにか口にした方がいいよ?」
結はわずかに眉を下げ、屋台を探そうと足を踏み出す。
だが、次の瞬間、右腕を強く引かれ、体は不意に後ろに傾いた。
「ん」
「な、なに?」
「くれンだろ?」
男は無表情のまま、マスクを顎の下までさげた。
細められた瞳から感情は読み取れず、口元から顎、耳元にかけて火傷で爛れた皮膚が露わになる。
縦に並ぶ四つの金具が唇の下へと続き、鈍い光を返している。
下瞼にも同じ痕が広がり、それらは過去に刻まれた痛みを物語っていた。
「……さっき、子供騙しだって」
「覚えてねェな。早くしろ」
先ほどの言葉が胸の奥でくすぶるが、言い返したところで意味がないことはわかっていた。
仕方なく差し出したソフトクリームの先端を、男はためらいもなく舌で大きくすくい取った。
「は、半分も……それも、舌で……」
崩れた螺旋から、白いクリームがわずかに滴り落ちる。
随分と小さくなってしまったが、変わらず甘い香りが鼻先をくすぐった。
「食わねェの?」
「……具合悪い人のひと口じゃない」
「食べたら元気になるっつったのはお前だろ。溶けちまうぞ」
男の声は涼やかで淡々としていた。
どこか満足げな気配を感じ取り、結はわずかに頬を膨らませる。
仕方なく溶けかけた先端に唇を寄せると、ひんやりとした甘さが舌に広がり、冷たさが身体に染み込んでいった。