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お友達から始めよう【ヒロアカ】

第15章 弱さに宿る力



「アンタも見ただろう? ありゃ、暴走寸前だったじゃないか。自分で止めれたからいいものの……この子の右手、自由が効かない状態が数日は続くだろうさ」


 相澤の目が微かに見開く。
 一つ一つの説明が突き刺さるように耳に残っていた。
 その様子に、リカバリーガールは言葉を飲み込んだ。


「……まさか、まだ聞いていないのかい?」
「痺れは何度か……他には、何も」
「はぁ……全く本当に自分のことを話すのが下手な子だよ。あぁ、アンタのことを信用してないわけじゃないさ。きっと、心配かけたくないんだろうね」


 リカバリーガールは静かに息を吐き出し、手元の治療器具を片付け終えると相澤に目を向けた。
 視線の先で、相澤はベッドに横たわる結を見つめている。
 眠る結の肩が上下するたびに、胸の中で言葉にできない感情が広がっていくようだった。


「私の口から全部話すことはできるさ。でも、それじゃ何の意味もない。この子から直接聞きな、自分で話すって言っていたんだから」


 リカバリーガールは手早く机上の書類をまとめ、古びたカバンの中へとしまい込む。
 その動作は無駄がなく、それでいてどこか温かさを感じさせた。


「それから、気を失った理由は疲労だけじゃないよ。睡眠不足も原因さ。一緒に住んでいるからって、全部任せきりにしているんじゃないだろうね?」
「いや、今は一人で寝て――」
「あんまり口を挟みたくないけどね、甘やかしすぎると後で苦労するのはこの子だよ。一度、時間を作って、しっかり話し合いな」


 微かに放たれた苦言に相澤はただ短く返事をし、視線を床に落とす。
 その沈黙が返答以上のものを語っていた。

 すると、天井のスピーカーから放送が流れ始めた。
 表彰式の開始を知らせるマイクの声が、現実へと引き戻す冷たい合図のように響く。
 相澤は結の眠る顔に目を向け、何も言わずに重い足取りで立ち上がった。
 扉が静かに閉じる音が室内に広がると、残された空気だけが妙にひんやりとしていた。

 やれやれとでも言いたげに、リカバリーガールは短く息を吐く。
 椅子に腰掛けたまま扉を見つめる横顔には、二人の関係を案じる複雑な色が混じっていた。


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