第15章 弱さに宿る力
競技場の整備が進む中、治療室の静寂がゆっくりと時間を紡ぐ。
微かな寝息だけが響く空間に、新たな音が加わった。
廊下から近づく足音。
それは焦りをそのまま刻んだような、不規則なリズムを持っていた。
扉の前で足音が止まり、ガチャガチャとノブを回す音が響く。
急ぎすぎたせいか、その音はぎこちない。
ようやく扉が開くと、リカバリーガールは驚いた様子もなく来客を迎え入れた。
「なんだい、いてもたってもいられなかったってかい?」
「……結は」
その言葉は短いながらも、焦りと安堵の入り混じった響きを持っていた。
包帯で腕と手を覆っている男、相澤は平静を装って結の傍に近づくと、静かに腰を下ろした。
「ぐっすり寝てるよ。ずっと喋りっぱなしだったから余計に疲れたんだろうね。三位決定戦まで寝かせてあげな」
リカバリーガールは時計を見ながらそう告げたが、相澤は視線を結に落としたまま。
その表情には、どこか重い考えが浮かんでいるようにも見えた。
「……それは中止になった。飯田が早退したんだ。詳しくは聞けなかったが、兄貴が敵に襲われたらしい」
「そうだったのかい……無事だといいけどねぇ」
低く、抑揚をほとんど持たない声が室内に染み渡り、淡い緊張感をもたらす。
リカバリーガールは一瞬手を止めたが、すぐに落ち着きを取り戻し、治療器具に目を落とした。
淡々と器具を整えながらも、冷静さと生徒への深い思いやりが交差していた。
その横顔に相澤は目を向けたが、何も言わずに視線を戻した。
「結の怪我の様子は?」
「怪我自体は軽傷さ。ただ、問題は個性の反動だね。今回はどの程度なのか本人に聞かないと分からないけど……素直に答えるかどうかね」
わずかな焦りがにじむ声にリカバリーガールは肩をすくめながら、ちらりと結の右手へ目をやった。
包帯で覆われているが、外見上は特に異常が見えない。