第15章 弱さに宿る力
唐突に零れた爆豪の言葉に、結は驚きで顔を上げた。
瞳がわずかに見開かれ、ふわりとした笑みが表情に滲む。
「そうだね、約束する?」
「ガキみてェなことしねーよ幼稚が」
「よく言われる」
左手を静かに持ち上げ、小指をそっと差し出す結。
だが、爆豪は動かなかった。ただじっと、目の前に差し出された指を睨むように見つめている。
「んなことしなくても守るわ。つか、さっきからずっと喋ってんな」
「そうかな……? 気が緩んでるかも、荒々しくない爆豪くんって話しやすいから」
「……あ、そ」
爆豪の目がわずかに細められ、何かを言いかけて飲み込む。
眉をほんの少し寄せただけで、その気持ちは掴みきれなかった。
結の本心に触れるたびに胸の中で膨らむ感情。
馴染みのない、正体が掴めない感覚に爆豪は居心地の悪さを覚えていた。
「おや、話は終わったのかい? そろそろ決勝戦が始まるみたいだよ。最後の試合、頑張ってきな」
部屋の扉が軽くノックされた音とともに、リカバリーガールが顔をのぞかせた。
爆豪は無言のまま立ち上がり「頑張ってね」と声をかけた結に反応せず、背中を向けたまま扉の取っ手を掴む。
静かに閉まる音だけが響き、彼の姿は消えた。
結はその場に残されたまま、天井を見上げてから目を閉じた。
いつの間にか感じ始めていた眠気が一気に押し寄せる。
リカバリーガールの話し声を子守唄代わりに、まどろみの中でやがて眠りに落ちていった。
結が眠りに落ちてから十数分後。
競技場では爆豪と轟による決勝戦が進んでいた。
緑谷との戦い以来、どこか不調の影を隠せていない轟。
全力を出さない相手など許せない、そんな感情が爆豪に強い勢いを加える。
砂埃が舞う中、轟は左の炎を使い迎え撃とうとしたが、その手は途中で止まり、攻撃が直撃した。
煙が晴れ、白線の外側にそびえる氷壁が目に映る。
そこで轟は寄りかかるように倒れ、気を失っていた。
「ふざけんなよ!!」と爆豪の苛立ちはとどまることを知らず、倒れた轟の胸ぐらを掴む。
だが、ミッドナイトの個性「眠り香」によって意識を落とし、爆豪は宣誓通りの優勝を手にしたものの、静かな寝顔を晒していた。