第15章 弱さに宿る力
「……最後に死ぬ気とか、殺す気って、怖い言葉を言う君が少しだけ嫌になって。個性が、抑えられなくなった」
「テメーの個性なのに、使い方も分からねェのか」
「……うん。私の個性は見たことのある個性を使えるようになるんだけど、さっきみたいに、知らない個性が出たりするの。だから、たくさん使いたくない……怖い、から」
静かな声が部屋の中に落ちた。
その言葉は、結が自分の胸の奥に抱えていた傷口を、そっと切り開くようなものだった。
ぎゅっと布団を握った左手は震えている。
自分の中にあるものが自分自身でコントロールできない。
そんな恐怖が結の中に深く根を張っていることを、爆豪はようやく理解した。
「一度だけ、全力で使ったことがあるけど」
結の肩が一瞬だけ小さく揺れる。
視線は依然として布団の上に固定され、表情は前髪に隠れて見えないままだった。
「ぜーんぶ、めちゃくちゃになっちゃった」
過去を掘り起こすように話す声には、どうしようもない諦めと悲しさが宿っていた。
何か大切なものを失った人間だけが持つ特有の響きだった。
爆豪は無言のまま、結の感情を探るように視線を向ける。
その目には普段の苛立ちや怒りはない。
少しうつむいていた肩が再び小さく震えた。
「私が雄英に入ったのは、ヒーローになりたい気持ちもあるけど……早く、個性に慣れたいから。これは先生も知らない私だけの秘密。話しちゃったから、秘密じゃなくなったけど」
「人のせいにすんな」
「聞いた君のせい」
爆豪は眉間に皺を寄せて視線をそらす。
負けた気がして癪に障ったのかもしれない、その姿に結は小さく笑った。
少しだけ上擦っていたが、先ほどまでの悲しさは感じられない。
目元がわずかに和らいでいて、耳の先がほんのりと赤く染まっていた。
「……守りゃまだ秘密だろ」