第15章 弱さに宿る力
第一試合を制したのは轟だった。
炎の個性は最後まで見せず、氷の個性だけで飯田の動きを封じ込めたらしい。
競技場には冷気が微かに漂っていた。
その冷たさを肌で感じながら、結はゆっくりと戦場に足を踏み入れた。
『準決ラスト! 皆さんお待ちかね、爆豪、対、千歳!!』
マイクによって期待を煽る二人の紹介が始まる。
だが、結には水の中で響く音のように遠く聞こえていた。
それらを遮るように、心臓の鼓動が耳の奥で強く響く。
鋭い眼差しが刺さる中、結は深く息を吸い込み、右手を静かに握りしめた。
『START!!』
開始の合図が響いた瞬間、爆豪が動き出した。
だが、これまで見せてきたような俊敏で攻撃的な動きではなかった。
彼はずかずかと、まるで挑発するように真っ直ぐ結に向かって歩みを進めていく。
その姿に、結は一瞬動きを止めてしまった。
『って、おいおい爆豪! 個性を使う素振りもなく進んでいく! 千歳の個性知らねーのかァ!? 触れられちまったら終いだぞ!』
「ンなこと知っとるわ」
爆豪は目の前で立ち止まると、荒々しく結の胸ぐらを掴んだ。
力強く引き寄せられた勢いで結の身体はふらつき、視界が一瞬揺れる。
爆豪の予想外の行動に、そして、個性で反撃をしない結の無防備さに、観客席からはどよめきが起こった。
「相手に時間作ってやがったな? 舐めプしやがって」
「……なんのこと?」
「しらばっくれんな。今も俺を止めねェ、場外に飛ばさねェ。とっくに勝負は始まってんだぞ」
爆豪の右手に熱が篭もり始め、結は一瞬の判断でその手を掴んだ。
反射的な行動だったが、爆豪の手の力が抜けて服が解放される。
距離を取る間もなく、足元を狙った躊躇ない爆発が起こった。
「本気で来いや! 停止女!!」